僕は6年前の雪の日に、人を殺した。
きっかけは単純なもので、夜道を歩く酔っ払ったおっさんに突然殴りかかられたところを僕はやり返してしまったのだ。
僕は人間がそこまで脆いものとは知らなかった。たった数発殴っただけで簡単に動かなくなってしまうのだ。僕は、そのときすごくあせった。こんな都会の中心に死体を完全に遺棄できる場所なんてないのだ。この都会に人目に付かない場所なんてない。どんな場所に隠したっていつかは必ず見つかる。このとき僕は、人を殺したということにはなんとも思っていなかった。
だが、そのとき背後から声がした。
「おい、あんたそこで何やってるんだ?」
僕はパニックで壊れた思考で、そいつも殺そうと思い振り返った。
―――瞬間、壊れた思考回路が停止した。
そこにいたのは、人ではなかった。
それは、聖書などで出てくる悪魔の姿そのものだった。
「ありゃ?もしかしてひところしちゃった。そりゃ大変だねぇ。こんなところじゃ隠せもしないだろ?」
ふざけた感じでしゃべるそいつを見て僕は息をすることさえままならない。
「そこで、あんた俺と取引しないか?」
取引の内容とは、『消す』という力を持った悪魔の目と僕の目を交換するというものだった。
悪魔というのは、世界に数十万人規模で存在していて、それぞれ人間と体のパーツを交換して本物の人間に近づこうとしてるらしい。
「俺の目があれば、その死体をこの世から消すことができるぜ。」
自分の罪を消すことを最優先に考えてしまう僕の思考回路は、その取引にOKを出してしまった。
「そんじゃ、目ぇとじてろ。」
言われて、僕は目を閉じた。一瞬左目だけ熱くなったが、それはすぐに収まった。
「お前いったい何者だ?」
聞きたいのはこっちのほうだが、いったい何のことだろう?
「お前の右目、すんげぇやな感じするわ。まぁ、片目だけでもいいや。そんじゃ、契約成立ね。あぁ、それと忠告。これからお前は悪魔と同じ扱いになる。だから“エクソシスト”って、体のどこかに骸骨が磔にされてる十字架をつけてるやつを見たら逃げるか消せ。そいつらは、悪魔と悪魔の一部を持ってるやつを消そうとする組織だ。だから、気おつけろよ。」
そういうと、目の簡単な使い方をいって消えてしまった・・・。
その後、僕はこの世から殺してしまった人の存在を消去した。
まわりの人間は、けした人間に関しての記憶がなくなってしまう、とあいつわいっていた。
そして僕は、人を殺してしまったという罪悪感と人の存在を消してしまったという恐怖に耐えながら、この呪われた左目と今も生きている。契約してから気づいたことだが、いくら消す力があっても自分の罪は誰にも消すことはできない、というものだった・・・。
3年前、僕は亜姫(あき)と出会った。
K県瓶摩市(かめま)街は3年ぶりの雪で、例年のクリスマスよりにぎわっていた。
雪が降ると、どうしても3年前のことを思い出してしまう。今では、左目に常に眼帯をつけどんなことがあっても使わないように、自分に戒めを科している。
駅前を通ると、街中に飾られたイルミネーションをみに大勢の家族やカップルで埋め尽くされていた。
この場所に一人さびしい自分は相応しくないので少し早足で帰宅することにする。
僕の家は、市内にあるちょっとしたアパートだ。中は生活に必要な家具・家電・服意外に特になく、少し殺風景なものだ。
唯一の世間を知る機械の電源をつけると、既に見飽きたニュースがまたながれていた。
そのニュースの内容とは、最近この街で起きている怪死事件や行方不明事件というもので、ここ1ヶ月で被害者は10人に上っていた。たった今のニュースで1人増えたから性格には11人ということになる。この11人の事件に特に関連性がないため警察の捜査は難航状態だった。 だが、それは警察を含めた一般人の視点からの話であって、これらの事件は僕を含めた裏の人間から見たらすべてが関連性を持つ事件だった。犯人は確実に悪魔関連の人物だろう。
ふと外を見ると、いつのまにか夜になっていた。
「そういえば、今年の雪は3年ぶりだっけな。」
夕方はしっかりと雪を見ることができなかったから、少しそとに出てみようかとおもう。
外は夜の黒と雪の白のモノクロの世界になっていた。
3年ぶりの雪は、3年間溜め込んでいたものを出しているような感じで、やむ気配がなかった。
誰の足跡もない雪道に自分の足跡を残しながら、駅の方まで歩いてみる。
駅の前は夕方のそれとは違い、まったくの無人となっていた。イルミネーションも無くなっていて、今まで見たことのない廃墟のような駅になっていた。
そろそろ、防寒備がの効果が無くなってきたのを感じ、駅の周りを一周歩いて、家へと引き返すことにした。
家へと歩いている途中、電柱の下に人が立っているのが遠くから見えた。
確か、くるときは誰もいなかったような・・・。
こんな時間に外に人がいるのは怪しいので、少し警戒しながら近づいてみる。
「・・・・・・何だぁ。」
ぼくは、ホッと胸を撫で下ろす。
そこにいたのは、全体を薄めの橙に身を包んだ僕とさほど年のかわらなそうな女性だった。
―きれいだよね―
突然彼女は視線を空へ向けたまま口に出した。
「あ、はい、そうですね」
あまりに突然だったので僕の声は少し裏返っていただろう。
そして、僕の安心感は次第に不信感へと変わっていった